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「食肉の安心・安全」と「肉の美味しさ」について 松永牧場グループ(株)萩牧場の事例

平成28年4月12日

発表者紹介

松永さま松永牧場グループ(株)萩牧場 代表取締役社長 松永直行氏

島根県益田市の市街地から車で30分。甲子園球場5個分、20haを超える山あいの敷地に、数十棟の牛舎が立つ。最も大きい牛舎は長さが約100m。益田市と山口県萩市の計4ヶ所の牧場で、計1万頭を超える牛を育てている。肉牛の繁殖から肥育まで一貫して手がけ酪農も同時に営むユニークな畜産経営。(平成28年3月2日、朝日新聞の報道から)

発表内容

「食肉の安心・安全」と「肉の美味しさ」について」
松永牧場グループ(株)萩牧場 代表取締役社長 松永 直行 氏

お騒がせして済みません、松永です。僕は、経営の話は今回一切しません。今回TPPを結んだことによって、大量の例えば畜産物が入ってくると思うのですけれども、日本の畜産物と輸入の畜産物の違いをどういうふうにあらわすか、またそれをどういうふうに消費者に理解してもらえるかによって、日本の畜産が残るのではないかなと思っています。

特に和牛の肉に至っては、世界三大珍味というものがありますが、もし五大珍味があるとすれば日本の和牛が必ず入ってくるのではないか、それだけ希少価値のある味のある、おいしい肉だと思っています。そのおいしさのアピールの仕方というのをもっと考えていくべきではないかという考えを持っています。ですから、日本の畜産で全ての畜産が残るためには、世界に何かを発信する必要があると思っています。

スライドNo.1

スライドNo.1

スライドNo.2

スライドNo.2

最初に、肉のおいしさというのを皆さんどう感じられていますか。これは(スライドNO2参照)、私が考えた意見です。

まず最初に感じるのは、多分、「耳」だと思います。今日の夜、松坂牛のステーキだよ、と言われると、食べる前においしいというイメージをつくってしまう。私は今58歳ですが、58年間ため込んできた知識で食べる。焼肉屋の店長が集まった会議で話をしたんですけれども、反感があるかと思ったら全然反感がありませんでした。最初にくるのは「耳」。情報によって物を食べる。これが人間。年をとればとるほど知識で物を食べる。ですから、本当の味というのは最後になっているのではないかと思っています。

次は、2番目が「目」です。よく言いますよね、おまえのところの肉は色が濃いからだめだと。逆に浅過ぎてもおいしくないと言われます。どういう色がおいしいかといいますと、少し浅い赤なのです。それが食欲増進の色だそうです。皆さん、新聞折り込みでチラシを見られたことがあると思うのですけど、必ず薄い赤を基調にしたチラシに食品はなっているはずです。その色を見て、食欲を増進して、それで買いに行きたいという色なのです。逆に、食べたくない色というのがあるのです。その色が青なのです。青色を多用しますと食品が売れなくなります。

この前、デパートの人とのお話があって聞いたのですけど、今、電球をどんどん新しい省エネの電球に変えろと言われていますが、それだと肉の色が出ないそうです。昔の蛍光灯の色が一番肉の色も野菜の色もきれいに出せる。どんどん入れかえろと言いながら、入れかえたら売れなくなるという。消費者というのは見た目をすごく大事にするのだと思います。

ですから食べ物というのは、「耳」からきて、次が「見た目」なのです。ですから、精肉でも色が濃いと売れない。問屋に聞くと、和牛の雌はちょっと色が濃い目のほうがおいしいと教えてくれるのですけど、現実にそれを売るときには売りづらいよと。そういう肉を買われる人というのは、テーブルミートではなくて、外食産業の方とかはちょっと色が濃い目の雌を買われる。結局、食べるところまでを加工してしまうので、おいしいという感じがしてくるのです。

三番目が「鼻」だと思っています。香り、におい。「耳」と「目」と「鼻」をふさいで、赤身の豚肉と牛肉を食べると、どっちが豚肉かわかる人はほとんどいないと言われています。赤身だけですよ。豚肉と牛肉で食い比べても、多分この3つをなくすと豚か牛かわからないという答えが出てくると思うのです。食べ物というのは、そういう見方をするべきではないかと僕は思っています。

それから四番目が「歯」。テレビで必ず出ますよね。最初に言うのが「やわらかい」、「かまずに溶ける感じがする」。そういう意識を持ってテレビがやっている。それで、テレビの番組を見ると、鼻以外の部分を最大限に利用した食べ物の表現の仕方をしています。最後に肉が甘いとか味があるかとかを言う。

皆さんが思われているように口の中だけの感覚で食べているのではなくて、この5つを利用して食べ物を食べているという意識を持っていただきたいんです。なぜかというと、これからの話、外国から輸入されるものに勝つためには、ここの五感を利用して消費者に対してアピールする必要があると思っています。そのアピールの仕方によって、日本の牛肉、あるいは豚肉、鶏肉も、消費の拡大につながる。値段差は、こういう五感を利用した営業が必要ではないかと思っています。

スライドNo.3

スライドNo.3

スライドNo.4

スライドNo.4

昨日も今日も、安心・安全という言葉がたくさん出てきています。(スライドNO3参照)
では、何が安心で何が安全なのかという答えを出される人はほとんどいないのです。僕は反対なのです。何が安全でないか、何が安心でないかということを考えて、これを除去すれば安全だという考え方を畜産の経営の中に持ち込んできています。その一番最初は「成長ホルモン」です。

「成長ホルモン」は、アメリカで大きく分けて2種類使われています。その1つは牛乳です。ここにおもしろい文献があるので読みますけれども、アメリカのティーンエージャーのバストは異常に巨大化している。これは成長ホルモン入りの牛乳の影響だと書いてあるのです。この成長ホルモンは、γBST、牛ソマトトロピンという名前らしいのですけれども、これを注射することによって乳量が約30%アップするのです。全米で大体40%の牛乳がそれを利用して搾られているといわれています。

それを加工した乳製品が日本には自由に輸入できるようになってくる。これはおかしいのではないかと。ここも問題視されてこないのが理解できないのです。これは週に1回注射をすることによって、30〜40%乳量が上がるとここに書いてあります。

それともう1つ、合成ホルモンでゼラノールとかメレンゲステロール、もう1つは長いので名前は省きますが、合成の成長ホルモンがあります。これは肥育業で使われています。耳の後ろに固形物を注射するのですけど、大体3〜6カ月の持続性があります。3〜6カ月かけてじわじわ吸収しながら発育を増強させる。これをやると大体30%の状態アップになるといわれています。

これが体にいいかどうかという話があるのですけれども、この成長ホルモン、これはシノベックスという商標で日本でも昔使われていました。うちの牧場も使っていました。シノベックスという成長ホルモン剤が、日本国内でもアメリカとかオーストラリアから輸入されていた。

これはホルスタインの去勢に使えというのがもともとだったのですけど、うちの牧場は間違えてホルスタインの雌に打ってしまったのです。どうなるかというと、おっぱいがどんどん大きくなるのです。その上、妊娠していないのに搾れば乳が出るのです。白い液ですが牛乳とはいえない。そういう状態になる。それが残留したものを人間が食べる。

もともとこの成長ホルモン剤の肥育で使う部分はヨーロッパで開発された薬です。ヨーロッパで試験的に使われて、そのころはどのぐらいの量を使えばいいかというのがわからない時代だったのですけれども、かなり大量投与してかなりのスピードで大きくなったのは確かなのです。ところが、試験が終わるとその牛を屠畜して、産廃の業者に出したそうです。ところが産廃の業者は、横流しをしてしまって、肉を販売してしまったのです。見た目でわからないからと。これが新聞でも一時載りました。今から30〜40年前ぐらいの話です。流通されたところで2歳の女の子がそれを食べたらしいのです。この合成ホルモン剤は、女性ホルモンなのです。それで、2歳の女の子に陰毛が生えてきて、初潮が始まったのです。これが問題視されて、今でもEUでは使用禁止になっています。

ところが、アメリカ、あとオーストラリア、フィードロットをやっているところは全てやっています。その肉を日本に輸入して食べるのが本当に安心なのか、安全なのかという答えがまだ出ていないのです。そこらあたりも1つ考えていただきたいと思っています。

次に、休薬期間のない「モネンシン」。日本の場合、モネンシンは休薬期間がなくて、肥育業では出荷時点で食わせたまま出荷してOKです。ところが、韓国ではモネンシンはOKですけど休薬期間があります。また、酪農の搾乳牛ではモネンシンはやってはいけないのです、日本の場合。ところがアメリカでは、モネンシンを全部、搾乳牛にやっているのです。行ってみられればわかります。モネンシンをやって何が悪いと言われるのですけど、モネンシンをやると牛乳にはモネンシンが検出できると文献に書いてあるのです、文献に。牛乳というのは血液でつくります。日本の牛には検出されていないと書いてあります。これはデータが古過ぎるのです。

それから、今日、採卵農家の人が来られていますけど、モネンシンというのは鶏でも結構使われます。抗コクシジウム剤なので。鶏にはコクシジウムにならないようにするためモネンシンをかなりやるのですけれども、採卵をするようになるとモネンシンはやってはいけないと書いてあるのです。ブロイラー、鶏肉には休薬期間が1週間ついています。なのに、何で牛肉に休薬期間がないのか。

これをどうしてこれだけ大きく言うかというと、今、ホルスタインの業界の肥育で、多分80%以上モネンシンを入れています。交雑牛では50%を超えました。和牛でも30〜40%を多分超えています。このままいくと、輸入牛肉との格差がなくなってくるのではないかと、そこに僕は恐怖感を持っています。

それとあと1つ、モネンシンをやっている子牛を買ってきた場合、モネンシンを体から抜く作業をします。この抜く作業のときに、薬害だなというふうに僕は感じています。モネンシンをやった牛からモネンシンを抜くこと、イコール、ASKAとか清原の今の状態と一緒になってしまうのです。牛が体調を思い切り崩すのです。このモネンシンを僕は薬害だと思っています。

あと1つ。モネンシンをやった牛は、肉にちょっとした苦みがあります。舌の肥えた人でないとわからないぐらいの苦みですけれども、抗生物質イコール苦いのです。肉に微量だけどあるのだなと感じるときが時々あります。

それから3点目として、モネンシンをやった牛というのは飽和脂肪酸がふえてきます。不飽和脂肪酸の量が減ってきます。逆を言いますと、脂が固くなってくるのです。かちんかちんに固くなります。日本の和牛のよさというのは、不飽和脂肪酸が多くて、特にオレイン酸が多い、食べて体に悪くない脂が多いサシの入った肉というのが特徴だと思います。ところがその特徴を阻害するのがこのモネンシンではないかと思っています。輸入牛肉と国産の違いというのは、この辺もちょっと考えてもらいたいと思っています。

それから、三番目に「殺虫剤・殺菌剤」。HACCPの話も結構出ていますけれども、消毒、消毒って、僕は不思議でならないのですけど、うちの牧場はもう殺虫剤を十数年まいたことがないのです。なのにうちの牧場へ来て、松永さん、何でこんなにハエが少ないの、と聞かれます。そのとき、僕は必ず答えます。殺虫剤をまいていないからだよと。あなた方が殺虫剤をまくからハエとか蚊がふえてくるのだよと言うのです。

何でか。殺虫剤をまくことによって、ハエとか蚊を食べる動物を殺しているのです、皆さんが。例えば、うちの牧場に来られてびっくりするのは、秋になると物すごいトンボが出ます。今は春ですけど、すごい数の卵、オタマジャクシがどんどん出ています。それから、ツバメがすごくふえてきました。あとコウモリ、クモ、ヤモリ。これらがどんどんふえてきたのです。1つの自然のバランスがとれた中で飼えば、蚊とかハエが大量にふえるということはないというのが僕の理論です。

現実に、これと同じ話が中国で昔あったのです。中国で、お米を食べる一番悪い動物はスズメだというので、スズメを国を挙げて退治しようという働きをやった年があって、翌年からスズメがお米を食わないから大量に採れると思ったら、その反対で大不作だったのです。原因は、スズメが食べる小さな虫が大量発生したために、お米が採れなくなってしまったのです。

バランスがとれるというのは、僕は農業だと思っていますし、そういうことをきちんとしないとだめだと思うのです。それで、今日野菜農家の話を金子さんもされていましたけど、私の知り合いの野菜農家もそうです。ハウスできれいなキュウリとかナスをつくっています。でもこれは食べる物ではなくて売る物だと。路地でつくっているキュウリとか野菜、これは人間が食べる物だと。

スライドNo.5

スライドNo.5

スライドNo.6

スライドNo.6

群馬に嬬恋村というキャベツの有名なところがあります。あそこに行ったときにびっくりしたのは、チョウチョウがいないのです。結局、殺虫剤をまいて青虫が出ないようにしているのです。今、日本の人間は青虫が食べて合わないキャベツを食べているのです。青虫が食べるキャベツは食べられないのです。こういうところを考えても、この殺虫剤の考え方というのはきちんと考えていただかないといけないと思っています。あと殺菌剤もですけれども、うちの牧場は悪いウイルスとかが大量に発生するのを抑えるために何をするかというと、いいものをどうやってふやすかなんです。それのバランスによって1つの畜産というのは成り立つのではないかと思っています。

殺虫剤も極力というかほとんどまいていないのですけれども、ワクチネーションで徹底してやるというのはやっています。ワクチンによって抵抗力をつくる。つくることによっていろんなウイルスに対する抵抗力をつくるという考えを基本に、うちの牧場では経営をしています。そういう形を考えてそれを消費者に訴えると必ず1つの答えは出てくると思っています。

四番目ですけれども、「遺伝子組み換え」。うちの牧場はしていません。というか、なかなか数量的にとれない。だけど、遺伝子組み換えはトウモロコシと大豆しかないのです。お米ではつくっていないのです。麦でもつくっていないのです。何でかわかりますか。人間が直接食べるものは遺伝子組み換えにしてはいけない、というのがアメリカの考えなのです。大豆とトウモロコシは家畜の餌で、家畜に食べさせて大きくなった肉を人間が食べるという考え方をしているのです。ですから直接、遺伝子組み換えをした大豆で豆腐なんかをつくるというのは、アメリカの基本的な考えにはないのです。それは日本にきて日本が勝手に考えたことです。非遺伝子組み換えの豆腐だとか納豆とかいうのは、非現実的なのです。当たり前のことを書いてやっている。それも消費者が知らないというのがおかしいと思っています。

逆に、何のために遺伝子組み換えをするかを少しお話ししますけど、遺伝子組み換えをするのは2つの理由からです。1つは、雑草が生えますよね。それを殺すのに今まくのがラウンドアップという薬です。これ以上に強い薬はないですけど、ラウンドアップをまいても枯れないトウモロコシにつくったのです。その次は、トウモロコシ畑に虫がついた。その虫を殺すために殺虫剤をまく。その殺虫剤をまいても枯れないように改造したのが遺伝子組み換えなのです。

ところが今ちょっと問題視されているものがあって、ラウンドアップをまいても枯れない草、抵抗力のある雑草ができはじめたのです。現実、アメリカで少しずつ広がっています。ということは、もう1回遺伝子組み換えをしてもっと強い農薬をまくということがくるのでは。トウモロコシもそういう新たな時代がきています。人間が本当に食べていいのかなと思っています。

アメリカ的に考えると、直接は絶対食べてはいけないという表現をしているのです、遺伝子組み換えに対しては。家畜の餌だからいいのだと。家畜に食べさせて肉にしたもの、牛乳にしたもの、卵にしたものを人間が食べるというふうにやっている。

これは僕の個人的な意見がかなり入っていますけれども、TPPを絡めて、実際に大量に畜産物が日本に輸入される場合は、こういう危険性があるということを皆さんにも頭に入れて、消費者に何をアピールするか考えて欲しいのです。おいしさについて先ほどもお話ししたように、耳とか目とか鼻が使われます。値段だけではない。アメリカの富裕層では、ホルモン不使用の牛乳、牛肉をオーガニックというのですけれども、これを食べている。一般市民と富裕層の違いがきれいに出ているというのが、ここに最後に書いてあります。

日本の国民のためにどういう畜産物をつくるかというのをもう1度考えていただいて、これがもしかしたらTPPで大量に入ってきたときの切り札ではないかと、日ごろ私が感じているところを少しお話しさせていただきました。どうもありがとうございました。

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